グアテマラでコーヒーを栽培する、パロ・ブランコ農園のイヴァンさん。高地の厳しい自然環境の中、有機栽培に取組み、グアテマラ最上級グレードSHBのコーヒーを作っています。
山頂付近にある、見晴らし抜群のコーヒーテラス
農園名の「パロ・ブランコ」は、スペイン語で白い枝という意味で、中南米の熱帯地方で見られる、白っぽい幹に無数の可憐な花が咲く木の名前です。農園周辺に自生するこの木にちなみ、「パロ・ブランコ農園」と名付けられました。
グアテマラの高地に位置するパロ・ブランコ農園では、厳しい自然環境の中、有機栽培に取組み、グアテマラ最上級グレードSHB(※1)のコーヒーを生産しています。
農園のあるウエウエテナンゴ県はメキシコと国境を接したグアテマラ北西部に位置し、国内8つのコーヒー生産地域の内、最も標高の高いHighland Huehue(ハイランド・ウエウエ)に当たります。メキシコから吹き込む乾燥した熱風のおかげで霜害から守られ、山岳地帯から吹きおろす冷風とこの熱風が混ざり合い微気候を生み出しているため、高地でも素晴らしいコーヒーを生産できます。
コーヒー栽培が盛んなこの地域では、飛行機の上からも濃い緑色のコーヒーの木々や加工施設がいたるところに見えます。イヴァンさんによると、この地域の95%が小規模農家で、品質よりも量を重視するため、パロ・ブランコ農園のように有機栽培に取組む生産者はほとんどいないそうです。
ウエウエテナンゴ空港から車で山奥に向かうこと約2時間、深緑の美しい森を抜け、最後は激しいアップダウンを繰り返しながら険しい急斜面を駆け上がると、山頂付近にあるパロ・ブランコ農園の加工所に着きます。「天空のコーヒーテラス」とでも呼ぶべき見晴らしのよいこの加工所から、遠くの山々と豊かな森のような農園を眼下に見渡すことができます。
※1 SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)は、1,350m以上の高地で栽培される最上級品で、昼夜の寒暖差により、実がしまって良質の酸味とコクがあります。
自然環境に適応しながら品質を保つため日々奮闘するイヴァンさん(左)と農園の現場監督フアンさん(右)
イヴァンさんは、代々コーヒー事業を営む家系の3代目です。以前は別の農園を所有していましたが、高地の方がよりコーヒー豆の品質がよいこと、また木々が病気に対して強くなることから、1990年代に現在の山頂付近に広がる農園を買い直しました。コーヒー栽培に適した湿度と微気候が、この場所を選んだ理由です。
2011年に大規模なさび病に襲われてから、農園全体を健全にしてやり直したいと考え、有機栽培に切り替えました。最初の2年の移行期間中もさび病は猛威を振るい、収穫量が落ちて苦しい時期が続きました。そこで、圃場の20%だけ残し、年老いて病気の影響を受けやすくなった残りの木々を思い切ってカットバックする決断をしました。以降、樹勢を増すように栽培技術の改良を重ね、年々収穫量を戻していきました。
そうして長年の努力が実り、2020年にCOE(カップ・オブ・エクセレンス ※2)グアテマラで入賞を果たしました。
※2 COE(カップ・オブ・エクセレンス)はコーヒーを輸出する各国で行われるコンテストで、出品された数百の優れたコーヒーからほんのわずかのコーヒーにしか与えられない称号です。
社会や環境に対する責任を持って、有機栽培に取り組むイヴァンさん。一杯一杯、丁寧に、高品質なコーヒー豆を生産をしています。
その後も様々なチャレンジを続け、海外の有機認証やレインフォレスト・アライアンス認証を取得しました。認証取得を継続的に取り組む過程で、「唯一無二のコーヒーを提供するために必要不可欠な、人間と自然環境の関係をより深く理解することができた。」とイヴァンさんは言います。
コーヒー業界、特にオーガニックコーヒー市場では、品質と社会的・環境的責任がこれまで以上に重視される中で、イヴァンさんは毎年、認証費用に数千ドルを費やし自ら有機認証を取得してきました。しかしコーヒーの生産コストだけでも上昇している中で、認証費用までもがどんどん値上がりしていったため、認証取得にかかるコスト負担は大きなものとなりました。
その一方で、パロ・ブランコ農園の一部のコーヒーは“スペシャルティコーヒー”として消費者向けに販売されていますが、そこではもはや有機認証の有無に興味を示さなくなっている現状があります。それに加え、北米への継続的な移住による労働力不足や、地域全体の農業活動に深刻な影響を及ぼしている気候変動により、作物の管理が複雑になっています。
エンドユーザーにとっては気づかないことかもしれませんが、生産者にとっては生産チェーンに直接影響を与える大きな問題です。そのため、今後も高品質なコーヒー豆の生産を続けていくために、生産に直接結びつかない費用を極力抑える必要があり、さまざまな要因を考慮した結果、有機認証の取得を継続しないという決断をしました。
コーヒーの木々は森の中で栽培され、自然林によって日陰の状態で管理されています。
有機的でないものを使用してしまうと、長年培ってきた品質の低下を招いてしまうことを十分理解しているため、有機認証はなくなりますが、栽培方法や管理体制は今まで通りの有機栽培を続けます。
具体的には、グランドカバープランツ(地被植物)を植えることで雑草のコントロールを強化したり、害虫や菌類との共存など学んだことを実践します。また、環境への責任ある取り組みや私たちが達成する品質を見せることで、多くの小規模生産者にとっての模範となる道筋を示せたらと考えています。
イヴァンさんはこれからも持続可能な農法に取り組み、より品質の高いコーヒー作りへとチャレンジを続けます。
山頂から広がる、自然豊かな美しい農園
山頂から広がる美しい深緑の農園は、高地特有の清々しい空気に包まれています。コーヒーの木々は急斜面に生えており、踏ん張っていないと一気に下まで転がり落ちそうです。ワーカーは慣れているとはいえ、この斜面を移動しながらの収穫作業は、かなりの重労働になります。
コーヒーの木々は十分な間隔をおいて植えられ、シェードツリー(※3)も多く、地面は様々な地被植物で覆われています。自然豊かな美しい農園では動物たちも共存し、時折オオカミが出没することもあるそうです。
※3 コーヒーの木を直射日光から守り日陰を作る樹木
山の自然環境と共存する加工所
イヴァンさん一家は、ワーカーの生活の質の向上に貢献を続けながら、地域コミュニティに対して可能な限り社会的および環境的責任を持つことに努め、様々な社会プログラムを実践しています。
近隣の学校に毎年机や食器を支給し、屋根の修繕をしています。環境面では、コーヒーチェリーを洗浄した後の排水や廃棄物の処理などに細心の注意を払い、水の適切な使用方法や水源を守ることなどについて、また、適切な有機肥料の使用方法や土壌の保護について、関係者間で協議を重ね、意識を高める活動を行っています。